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大阪地方裁判所 昭和48年(ヨ)2269号 判決 1975年3月27日

申請人 植村多恵子

申請人 吉沢節子(旧姓山本)

右両名訴訟代理人弁護士 山田一夫

同 西元信夫

同 豊川義明

同 川西渥子

被申請人 朝日放送株式会社

右代表者代表取締役 原清

右訴訟代理人弁護士 林藤之輔

同 中山晴久

同 高坂敬三

主文

一  被申請人は申請人両名をその従業員として仮に取り扱え。

二  被申請人は申請人植村に対し昭和四八年八月一日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り金四万六、五〇〇円を、申請人吉沢に対し昭和四九年四月一日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り金四万二、〇〇〇円をそれぞれ仮に支払え。

三  訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

主文同旨

二  申請の趣旨に対する答弁

1  申請人らの申請を却下する。

2  訴訟費用は申請人らの負担とする。

第二申請の理由

≪以下事実省略≫

理由

第一申請人らの雇用契約締結、更新の経過と業務の内容

一  被申請人がラジオ、テレビの放送を主たる目的とする従業員数約九〇〇名の会社であり、申請人植村が昭和四六年八月一日、申請人吉沢が昭和四七年四月一日、いずれも期間六ヶ月の約束で会社に雇用され、その後右雇用契約をそれぞれ三回、再契約という手続のもとに更新し、引続き会社に勤務してきたこと、会社が、申請人植村に対しては昭和四八年七月三一日、申請人吉沢に対しては昭和四九年三月三一日付で臨就規四条二項を適用しそれぞれ雇用期間満了を理由に退職したものとして、その後申請人らを従業員として取り扱わないこと、申請人らの業務内容が昭和四二年放送開始の「ヤンリク」放送番組に係わる葉書の運搬、分類、整理、記念品の発送等の業務に終始したことは当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が一応認められる。

1  申請人植村について

(1) 申請人植村は、昭和四二年三月東大谷高校を卒業し、同年四月から住友生命保険相互会社本社に社員として就職して内勤事務に従事したが、違った職種に移りたいとの動機から、昭和四六年四月五日頃、父親の友人で当時被申請人会社ラジオ製作部ディレククターをしていた岩本を訪ねて履歴書を預け、同会社への就職を依頼した。

(2) 申請人植村は、昭和四六年七月一四日、会社ラジオ局製作部長松本克己の面接を受け、「ヤンリク」放送の葉書整理アルバイト笠谷悦子の後任として採用が内定した。その際、松本は、申請人植村に対し、仕事の内容、勤務時間、週一回の休日、日給で、定期代が支給されることを説明したほか、雇用期間は六ヶ月であるが二年まで勤務でき、満一年を経過すると年次休暇が六日とれることを説明した。

(3) 申請人植村は、同年八月二日(同月一日は日曜で休日)出社して直ちに就労し、その際同月一日付の雇用契約書に署名捺印した。その雇用契約書には、雇用期間を「自昭和四六年八月一日至昭和四七年一月三一日」、業務内容を「ハガキ運搬、分類、整理、記念品発送その他」とし、就業時間、休日、賃金等について記載があるほか、末尾に「本契約に定めるもの以外の条件については、臨時雇用者就業規則の定めるところによる。」との記載がある。申請人植村は、同日、ネームプレート、身元保証書の用紙等とあわせて、臨就規を印刷した書面の交付を受けた。

(4) 申請人植村は、右雇用契約締結後三回、再契約という手続のもとに契約更新をし、引き続きラジオ局製作部で就労した。第一回目の更新は当初の雇用期間を一週間経過した昭和四七年二月八日頃なされたが、その際の手続は会社から雇用期間を同年同月一日から同年七月三一日と記載したほか当初の雇用契約書と同一書式、同内容の同年二月一日付雇用契約書に署名捺印を求められただけで、事前に会社から更新意思の打診もなければ、申請人植村から契約更新の申立をすることもなかった。第二、第三回目の更新も同様で、いずれもその直前の雇用期間が満了して申請人が引き続き労務の提供を続けるうち、日付を遡らせた雇用契約書に署名捺印を求められるだけであった。

2  申請人吉沢について

(1) 申請人吉沢は、昭和四一年二月大阪福島女子高校を卒業し、同年九月から上半商事株式会社大阪支社に就職してタイプ関係の職務に従事していたが、健康を害して昭和四六年二月退社し、昭和四七年一月頃、友人である申請人植村を通じて被申請人会社に就職を希望したところ、同年三月二二日、会社から呼び出され、ラジオ局製作部次長奥村典の面接を受け、同月末日限りで退職予定の「ヤンリク」放送の葉書整理アルバイト有吉美代子の後任として採用が内定した。この際、奥村は、申請人吉沢に対し、申請人植村の前記採用面接の場合とほぼ同内容の説明をした。

(2) 申請人吉沢は、同年四月一日会社へ出勤して就労し、その際ラジオ局製作部次長奥村典から申請人植村と同一様式の同日付雇用契約書に署名捺印を求められ、六ヶ月期間の二年満期という説明を受け、臨就規の交付を受けた。

(3) 同申請人も右雇用契約締結後、六ヶ月毎に三回、再契約という手続のもとに契約更新をしたが、第一回目は当初の雇用期間満了後五日を経過した同年一〇月五日頃、第二回目は昭和四八年三月一四日頃、第三回目は同年九月二〇日頃で、第三回目は既に申請人植村の本件訴訟係属後であったためか、会社は雇用契約書各項記載の労働条件について確認を求め、臨就規四条二項を読み上げる等して厳格な手続をとった。

申請人ら各本人尋問の結果中、申請人らが当初の雇用契約の際、臨就規の交付を受けなかったと述べる部分は≪証拠省略≫と対比してたやすく信用することができず、また、≪証拠省略≫のうち申請人植村の契約更新についていずれも前契約の期間満了前になされたとする部分はそれを裏付ける疎明資料の提出がないからこれを信用することができず、他に右認定を妨げる疎明資料はない。

三  前掲各疎明資料によると、申請人らの業務内容の詳細について次の事実が一応認められる。

「ヤンリク」放送番組は、聴取者が葉書でリクエストした曲を中心に構成し、合間にお笑いタレントのお喋り、聴取者からの短信、クイズ等の各コーナーをおりまぜながら、毎日午後一一時二五分から三時間にわたり生(なま)放送される若者向けの深夜放送番組である。

申請人らは、毎朝一〇時に、大阪中央郵便局へ行き、聴取者から寄せられた同番組へのリクエスト葉書(一日平均五、〇〇〇通位)を会社まで運搬する。これらの葉書を、有効消印を確認しつつ、クイズの正解者別、リクエスト曲のブロック別、曲名別の三回にわたり仕分け分類し、この過程で聴取者の短信や番組出場希望の書かれた葉書を抽出する。ディレクターの選曲したレコードを放送資料室格納ボックスから借り出し、試聴のうえラジオ製作部に運搬する。同部次長にクイズの当選者決定を依頼し、当選者に対し賞品、賞金を発送する。この他、クイズ当選者名簿の作成、リクエスト葉書枚数等の記録、番組出場希望者等への案内状送付、短信の採用者等に対する記念品の発送、クイズの清書、コピー、聴取者やレコード会社等からの電話応待など、同番組作成に係わる庶務一般に及んでいる。

そして、申請人らは、会社において、常勤アルバイトと称せられて、右業務に従事していたものである。

第二常勤アルバイト制度成立の経緯

一  会社の雇用政策の動向と臨就規則制定の経緯

昭和四六年当時会社に社員を対象とする就業規則が既に存在していたが、会社が同年三月一日臨時雇用者のみを対象とする臨就規を制定したこと、臨就規制定手続において当時のラジオ局長神原金吉を労働者代表として労基法九〇条の意見聴取を行ったことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すると次の事実が一応認められ(る)。≪証拠判断省略≫

1  会社は昭和三三年頃から、大阪テレビ放送株式会社との合併を進め、それまでのラジオ放送に加えてテレビ放送を兼営する民間放送局として会社組織を再編した。右合併に伴い、従来大阪テレビ放送株式会社に出向していた毎日放送株式会社系の社員約一〇〇名が同社に引揚げ、その結果人員不足が生じたため、会社は昭和三三年八月、当時アルバイトとして雇用されていた者六四名を準社員として採用した。その後、昭和三五年四月会社に組合が結成されて、同年五月の第一回定期大会で準社員制度廃止の方針を採択するなどし、会社は、昭和三七年四月準社員制度を廃止して、六三名の準社員を社員に採用した。(うち、三三名は社員試用。)

2  会社は、巨額の設備投資を必要とするテレビのカラー放送開始に伴ない、昭和四〇年前後頃から企業合理化を推進させ、他の民間放送会社と比較して全従業員のうち社員の占める割合が高いとの認識に立って、人件費節約のため昭和三八年、三九年には社員雇用を全然行なわず、昭和四〇年、四一年に再び社員雇用を行なったが、昭和四二年以降は、将来の幹部要員としての大学卒の男子を除いては社員雇用を一切行なっていない。この反面、昭和四二年頃からは、会社の従業員のうち、下請労働者、アルバイト、日雇、嘱託、出来高払雇用者等社員以外の雇用形態をとる者の占める割合が次第に増加していく傾向をたどった。

3  右の現象を、会社の女子従業員雇用の側面からみれば、会社は昭和四一年に二名の女子社員を雇用したのを最後に、昭和四二年以降女子を社員としては一名も雇用していない(この点は当事者間に争いがない)。会社が女子社員の雇用を停止した理由として挙げるものは、一般合理化の必要のほかに、(1)放送企業の性質上、深夜業、休日出勤など時間外勤務が多いにもかかわらず、女子社員をこれらの業務につかせるには労働基準法上幾多の制約があること、(2)女子社員の定着率が低いこと、(3)将来の幹部要員としては男子に比較してその平均的能力が劣ることの諸点である。

そして、会社の右女子社員採用停止と前後して女子アルバイトの雇用は年々増加していった。(その数、配置、業務内容については後記認定のとおり。)

4  会社のアルバイト雇用の方針については、「アルバイトの雇い入れおよび取り扱いについて」と題する各局部(課)長宛ての総務局長通達が昭和四一年八月二〇日付(これは経理局長との連名)、昭和四二年一〇月二三日付、昭和四五年五月八日付にそれぞれ出されている。

当初の昭和四一年八月二〇日付通達によれば、冒頭部分に「アルバイトの雇い入れはとくに緊急やむを得ない事情があり、かつ予め承認を得た場合に限り、なるべく学生を出来るだけ短期にとどめること」と基本方針を記載し、雇用期間については一ヶ月以内を原則とし、一ヶ月を超えて雇用する場合は「一応六ヶ月以内」とするとあったのが、次の昭和四二年一〇月二三日付通達では、冒頭部分に右の基本方針を記載しながらも「このたびアルバイトの取り扱い基準を若干変更することにしました」とし、雇用期間については依然一ヶ月以内を原則としながら、一ヶ月を超えて雇い入れる場合契約期間は六ヶ月以内とし、この場合「やむを得ない事由により再契約することがあるが、この場合でも原則として再契約は三回(即ち雇い入れ期間は二ヶ年)を限度とする。」として、ここにおいて比較的長期間の、しかも原則として二年を限度とする常勤アルバイトを制度として認めた。そして、昭和四五年五月八日付通達では、冒頭部分には「所定の手続により予め承認を得た場合に限り、出来るだけ短期にとどめること」との記載があるだけで、従来の「とくに緊急やむを得ない事情がある場合」とか、「なるべく学生を」の文言が削除された。また、同通達では、アルバイトの雇用期間について、昭和四二年一〇月二三日付通達と同様の定めを記載したほか、新たに「毎日勤務の常勤アルバイト」については「六ヶ月を継続勤務の後、さらに再契約の必要ある者については、健康診断を行ない、審議の結果、再契約が決定されたとき、健康保険、厚生年金保険、失業保険に加入させる。ただし、学生を除く。」と定めて、常勤アルバイトに社会保険加入を認めた。

5  組合は、昭和四二年三月上部団体である民放労連から下請労働者、アルバイトの組織化の指示が出されたのを契機に、組合内に未組織担当者を置き、下請労働者、アルバイトの実態調査を実施するとともにその要求を取り上げて組織化する方向で検討を進め、昭和四五年一〇月六日組合規約を改正して下請労働者、アルバイトの組合加入を認めた。

6  組合は、昭和四五年年末交渉の過程で、同年一一月二日付の要求書に基づき、アルバイトの年次有給休暇、時間外割増賃金等を会社に要求したが、会社はアルバイトの労働条件に関しては組合との交渉事項ではないとして交渉拒否の態度に出た。

そこで、組合は、同年一二月四日、天満労働基準監督署に対しアルバイトに年次有給休暇を与えないのは労働基準法に違反する旨申告した。

その結果、同署は、同年一二月八日、会社に対し文書で(1)常勤アルバイトに対する就業規則が作成届出されていないこと、(2)常勤アルバイトに対する時間外割増賃金が法定額より下廻っていること、(3)雇用期間が継続して一年を超える者について年次有給休暇が与えられていないことの三点について是正するよう勧告を行なった。

7  会社は、右是正勧告を受けて、アルバイト等臨時雇用者を対象とする臨時雇用者就業規則を作成し、昭和四六年二月二八日天満労働基準監督署に届出て、同日受理され、同年三月一日から施行するに至った。

右規則の作成手続において、労働基準法九〇条の意見聴取手続を踏む必要があったが、当時組合は全従業員の過半数を組織していなかったため、会社は管理部会議の推薦した神原ラジオ局長を労働者代表とすることについて、全従業員を対象に信任投票を実施した。その結果、同人に対する過半数の信任が得られたので、会社は同人から右規則についての意見を聴取し、その意見書を添付して右監督署に届出た。

二  臨就規の内容と運用の実態

1  臨就規四条一項に「アルバイトの雇用期間は六ヶ月以内とし、業務の都合に応じて個別に契約において定める。」、同条二項に「前項により雇用したもののうち会社が必要と認めたものについては、雇用期間満了の際新たに前項に規定する期間以内の契約を締結することがある。この場合いかなる事由があっても三回を超えて再契約を行なわない。」と定め、二六条一項二号にアルバイトが雇用期間が満了したときは退職とする旨の定めがあることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、臨就規の対象者である臨時雇用者とはアルバイトおよび日雇の二種をいい(臨就規二条一項)、アルバイトとは一定の期間を定めて臨時的または補助的業務に従事するもので、日雇とは日日雇入れられるものをいうと定められている(同条二項)ことが認められる。

2  臨就規の運用の実態を、本件に関係するアルバイトについてみると、≪証拠省略≫を総合すると次の事実が一応認められる。

昭和四九年四月現在で会社におけるアルバイトの雇用総数は、大阪本社、東京支社を合わせて計八一名であり(全従業員数が約九〇〇名であることは、当事者間に争いがない。)そのうち女子が六五名、男子が六名で、女子が圧倒的に多い。しかも、右男子アルバイトはすべて学生(うち一名は夜間大学生)であるのに比べ、女子アルバイトは常勤で、他に学業等をもたない平均年令二四、五才の未婚の者が大半を占めている。アルバイトのうち学生が減り、女子常勤アルバイトが増えたのは昭和四二年頃からである(これは会社の女子社員採用停止の時期と一致し、一方、女子社員については、昭和四一年頃六〇名いたのが、昭和四九年には三九名に減少し、女子常勤アルバイトより少なくなっている。)。

女子常勤アルバイトの雇用状況は、一般公募はなされておらず、会社関係者または前任者の紹介という、いわゆる縁故採用の方法がとられている。雇用期間については、契約当初から、六ヶ月契約を三回更新して二年間勤務するという約束で雇用される者が大半を占めている。また、会社における配属は、ラジオ、テレビの制作部等現場部門をはじめとして、管理部等事務部門にも広く配置されている。従事する業務内容としては伝票等の整理業務、番組作成に伴う連絡業務等比較的補助的作業が多いが、従来女子社員が主として担当してきた業務を引き継いでいる例も少くない。(この点について、≪証拠省略≫の中、女子アルバイトの業務は、女子社員の業務の引継ぎではなく、従来から女子アルバイトにより行なわれてきたものをそのまま引継いでいる旨の供述は、前認定の女子社員採用停止と女子アルバイト増加時期の一致、会社における女子アルバイトの総数と広範囲な配属の事実に照らすと、到底これを信用することができない。)

なお、社員を対象とする就業規則によれば、会社の社員は、特殊の技能、経験ある者、その他会社が特に認めた者を除き、満一五才以上満四〇才を超えないものを選考試験を行なったうえで採用し、原則として一ヶ年の試用期間がおかれており、会社が特に必要と認めた者で定年を延長する場合のほか、満五五才の定年で退職する旨定められている。

第三申請人らの雇用契約の法的性質

一  以上の各事実を併せ考えると、申請人らと会社との間の雇用契約は臨就規に依拠して締結されたもので、会社は、ラジオ局製作部の「ヤンリク」放送関係の葉書整理等部内庶務業務に従事させるため、申請人らを臨就規二条所定のアルバイトとして、臨時的業務に従事させるというよりは補助的業務に従事させるものとして雇用し、いわゆる常勤アルバイトと呼称して日雇、いわゆる非常勤アルバイトと区別したうえ、継続的に雇用しているものである。

そして、先に詳細に認定したところの会社における常勤アルバイト制度導入の経緯、とくに臨就規制定前の会社のアルバイト雇用に関する通達の変遷(昭和四二年一〇月二三日付通達で雇い入れ期間を二ヶ年とするアルバイトを創設し、昭和四五年五月八日付通達で、学生を除く常勤アルバイトのうち六ヶ月を超えて勤務する者に社会保険の加入を認めたこと)、女子常勤アルバイト雇用の実態、その業務内容、申請人らの雇用契約締結およびその後の更新手続の実態等からすれば、右雇用契約は、「ヤンリク」放送廃止等の原因による労働力の過剰状態を生じない限り、当初から臨就規四条二項所定の三回の再契約を繰り返した二年後の雇い止めまで雇用を継続することを双方が予定したものであって、同条一項がアルバイトの雇用期間を六ヶ月以内と規定しているため、申請人らの雇用期間を一応六ヶ月と定めてはいるが、当初の契約時から二年未満内に到来する六ヶ月毎の期間満了時には、いずれかから格別の意思表示がない限り当然更新(再契約)されるべきものとして、現に再契約という手続のもとに当然のこととして更新を重ねてきたものである(右更新手続も期間満了の毎に更新意思の打診もなされないまま再契約書が取り交わされるだけで、必ずしも事前に、厳格に行なわれていたわけでではなく、少くとも申請人植村の雇い止めが本件仮処分申請により問題化するまではかなりルーズな取り扱いがなされていた)。

加えて、会社において申請人らの従事した業務内容は、前認定のとおりであって、右六ヶ月の契約期間を合理づけるだけの臨時的ないし季節的性質をもったものではない。(この点、被申請人は、放送番組の改廃が六ヶ月毎に行なわれることをもって六ヶ月の契約期間の合理性を主張するが、申請人らの契約更新時期と番組編成時期が一致しているとの疎明はなく、また申請人らの従事した「ヤンリク」放送は前認定のとおり昭和四二年放送開始以来現在まで継続している事実からして、右主張は理由がない。)

二  してみれば、申請人らと会社の間で取り決められた六ヶ月という期間の定めは、臨就規四条一項に依拠した単なる形式上のものに過ぎないものであって、申請人らと会社との間の雇用契約は、実質的には、契約締結後二年で雇い止めすることを内容とする、期間の定めのない雇用契約と異ならないというべきである。

したがって、会社が当初の契約時から二年未満内に到来する六ヶ月毎の期間満了時に申請人らを雇い止めするには、単に期間が満了したという理由だけでは足りず、臨就規二六条二項列挙のアルバイト解約事由に該当する場合に限り、かつ、その際、雇い止めの意思表示(その性質は更新拒絶ないし解雇の意思表示である)を必要とするものと解すべきである。

三  次に、申請人らと会社との間の雇用契約における二年の雇い止めは、臨就規四条二項所定の「いかなる事由があっても三回を超えて再契約を行なわない」旨の条項に依拠するものであるが、右二年雇い止め条項の法的性質は、労働者を拘束する意味の労基法一四条の労働契約期間ではなく、二年の雇用期間経過を解約の条件とする定年解雇制類似の性質を具有するものとみるべきである。すなわち、前記のとおり、会社が申請人らを当初の契約締結から二年未満内に到来する六ヶ月の期間満了時に雇い止めを行なうには、臨就規二六条二項列記の解約事由に該当する事由を必要とするのに対し、前記臨就規四条二項は、二年の雇用期間満了時において、会社は臨就規二六条二項列記の解約事由に制約されることなく自由に雇い止めを行ないうる趣旨を定めたものと解される。

そして、臨就規には四条一項所定の六ヶ月以内の期間の定めのある雇用契約の期間満了時に退職扱いをする旨の定め(二六条一項二号)はあるが、雇用契約締結後二年の期間満了により当然退職となる旨の規定(前認定の就業規則における社員の五五才定年制による退職の定めと同様の規定)がないから、二年雇い止めをするには会社による雇い止めの意思表示を必要とすると解すべきである(なお、前認定のとおり申請人と会社との間の雇用契約が形式的には臨就規四条一項所定の六ヶ月という期間の更新を重ねて継続されてきたものであるから、二年雇い止めによるアルバイトの退職についても、形式的には六ヶ月毎の期間満了による退職の規定に依ることができるとも考えられるが、この場合にも前記のとおり雇い止めの意思表示が必要である)。

第四申請人らに対する雇い止めと権利濫用の成否

一  会社が申請人らに対し、臨就規四条二項の定めを理由に、その雇用期間がそれぞれ満了したものとして、退職の取り扱いをしていることは前認定のとおりであるから、これは会社が申請人らに対し二年の雇用継続期間満了を理由とする雇い止めの意思表示をしているものとみることができる。

しかしながら、いかに定年解雇制類似の自由な雇い止めとはいっても、そこには自ら公序良俗、信義則、権利濫用法則等のいわゆる一般条項による制約があり、これを離れた恣意的行為が許されるものではなく、とりわけ右雇い止めは実質上若年定年を理由とする解雇と同様の機能を営むものであるから、解雇の法理を類推してその雇い止めによる解約が著しく苛酷にわたる等相当でないときは権利濫用の法理により無効となると考えられる。

二  前認定の各事実と≪証拠省略≫を総合すると、申請人らの担当してきた放送番組「ヤンリク」は昭和四二年以来今日まで七年有余の間継続しており、その聴取状況等に照らして今後も当分放送中止にされることは予測されないのであって、被申請人会社は、本件において二年間の職務経験を積んだ申請人らを雇い止めにして新たに申請人らと同種の女子常勤アルバイトを採用して同一の業務を担当肩代りさせているが、これは被申請人会社にとって能率低下等によって不利益になりこそすれ何ら利益となるものではなく、また申請人らのいわゆる常勤アルバイトの賃金は日給として勤続期間に関係なくその額が固定されており、右の雇用替により経費節減の効果さえ果たし得ないものであり、しかも通常の高令定年制の場合と異なり二年の経過により直ちに申請人らの職務能率の低下が考えられないものであって、被申請人会社には申請人らに対する本件雇い止めを行うのは同会社の嗜好のほか何ら合理的利益は存しないというほかない(この点、被申請人は、番組の平均寿命が二年であることをもって、アルバイトの二年雇い止めを合理的なものと主張するが、本件においては、申請人らの担当した「ヤンリク」放送の前記継続状態からみて、右主張は理由がない。)もっとも、被申請人会社がこのような雇用替を行なっているのは、前記常勤アルバイト制度導入の経緯に照らすと、女子従業員の高令化に伴い、結婚、出産等による欠勤数の増加、組合活動の活発化を回避し得る利益を念頭に入れてのこととも考えられないではないが、これらの理由は労働法規の脱法的利益であって権利濫用の判定上被申請人側に有利な事情としての合法的な利益に数えることはできないこと、他方、申請人らは採用から本件各雇い止めにいたる当時まで、未婚の女子として二年間という必ずしも短くない期間被申請人会社に勤務し、その給与で生計を維持しつつこれに依拠して一定の生活実体を形成していたものであり、同人らはなお今後も被申請人会社に継続雇用されることを強く希望し、本件雇い止めにより唯一の収入源たる働き慣れた職場を失うことにより著しい苦痛と損害を受けることが一応認められ(る。)≪証拠判断省略≫

三  そして、右各事実を考え併せると、本件雇い止めは被申請人会社において何ら合理的利益もなく、専ら申請人にその職場を奪う損害と苦痛を強いるものであることが、推認できるから、被申請人の行なった本件雇い止めは著しく苛酷にわたるものであっていずれも権利濫用として許されないものといわねばならない。

したがって、申請人らに対する雇い止めの意思表示が権利濫用として無効である以上、その余の点について判断するまでもなく、申請人らは、実質上期間の定めのない雇用契約上の権利者として、会社のいわゆる常勤アルバイトの地位を保有しているものというべきである(形式的には雇用契約の黙示の更新の場合に準じ、更新前の雇用契約と同一の条件をもって更に契約がなされたものというべきである)。

第五賃金請求権

申請人らの賃金が毎月払いの日給制であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、申請人らの雇い止め当時の日給額がいずれも一、七五〇円であることが認められるから、申請人植村は昭和四八年八月一日以降、申請人吉沢は昭和四九年四月一日以降毎月末、その月の日数から週一日の休日を除いた日数に右金額を乗じた金額の賃金請求権を有し、その金額が申請人ら主張の金額を下廻ることはない。

第六仮処分の必要性

≪証拠省略≫ならびに弁論の全趣旨によれば、申請人らは賃金を唯一の収入源とする労働者であるところ、前記のとおり雇い止めの効力が生じないにもかかわらず会社から従業員として取り扱われず、本案判決確定に至るまで賃金の支払いを受けられないとすれば、生活の困窮等回復し難い損害を受けるおそれのあることがうかがわれるから、仮処分の必要性が認められる。

第七結論

以上の理由により、申請人らはいずれも会社のいわゆる常勤アルバイトとしての従業員たる地位を有し、少くとも申請人ら主張の金額の賃金請求権を有するから、申請人らの本件仮処分申請を保証をたてさせないで認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 吉川義春 佐藤武彦)

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